標準化と統合化による、財政的な持続性の実現

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世界各国において臨床検査サービスは、公的医療制度を財政的に持続させられるコスト水準を達成すると同時に、より優れた価値を生み出すことを要求されています。これは、費用と品質(精度)の両立が期待される、公共的な検査部門で特に重要な課題です。しかし、各病院および臨床検査室は、それぞれ個別の母体により運営されていることが一般的で、各々が個別に必要な資材を購入しています。予算は作業量および患者数に基づき配分されており、各検査室は低頻度の検査にも多くの予算を割いています。それでは、公共部門の臨床検査サービスが、財政的に持続可能かつ高品質(精度)なレベルを全国的に維持するには、どうすればよいのでしょうか。

これは、我々がペナン州(マレーシア)で2013年に直面した課題でした。ペナン州の臨床検査サービスは6つの病院で提供されていますが、6つの病院はそれぞれ異なるプラットフォーム(検査方法)を用いてサービスを提供しており、検査あたりのコストも病院間で差がありました。作業量およびコストに病院間で差異があるため、自治体予算の効率的な運用および適正な配分は困難でした。このため、緊急性の低い検査が一時中断される事態が生じることもありました。このような課題に取り組むため、我々は、2段階(標準化および統合化)からなる計画に着手しました。

1段階:標準化

直面する課題を克服し、財政的に維持可能なサービスを提供するため、我々は州全体のサービスを標準化することにしました。このための方法として、すべての臨床検査用機器・消耗品について、購入プロセスを一元化することにしました。この一元化を4年にわたり実施したところ、スケールメリットによってコスト削減できたと同時に、ペナン州のすべての臨床検査サービスにおける検査の標準化を実現できました。購入チームを一本化したことにより、他の臨床検査室の人材は本来の業務に専念できるようになりました。

購買の一元化によって、1テストあたりのコストを州全体で統一できました。このことは、患者さんに安心感を与えたばかりでなく、予算のより効率的な運用も実現しました。検査室間での作業量の差が解消されたため、施設ごとのテスト数に基づき、予算を公平に配分できるようになったのです。

標準化された機器一式が配備されたことで、我々は購入プロセス一元化期間をとおして、臨床検査室のパフォーマンス向上に集中できました。中でも我々のハブとなる検査室では、各ラボのパフォーマンスに加えて、導入された検査機器の評価も実施できました。

最終的には州内の6検査室間すべてにおいて、検査結果の標準化を達成しました。また、予算は約1300万リンギット(約3億円)で一定であったにもかかわらず、支出超過に陥ることなくサービスを持続したばかりか、さらなる検査サービスの拡大も実現したのです。

2段階:統合化

2017年、我々は本プロジェクトの第2段階に着手しました。(発表当時の2018年11月)現在も継続中であるこの第2段階の目標は、価値を高めると同時にコストを削減することでした。我々は、この目標を達成するため2つの方法を検討しました。すなわち、ペナン州のハブである中央検査室の臨床検査サービスを自動化する方法、または州全体のサービスをサポートする効率的な臨床検査情報システム(LIS)を構築する方法です。

プロジェクトのリソースには制限があり、我々はどちらを優先するか決断する必要がありました。ペナン州の中央検査室は完全には自動化されていないものの、高水準の検査が既に達成されています。一方でLISが構築されると、必要な器材を削減できる、自動バリデーションが州全体で導入される、中央検査室で得られた検査結果を他の5つの検査室で臨床医および病理医に(リアルタイムかつデジタル的な手法で)提供できる、といったメリットが見込めたことから、我々はLISへの投資を選択しました。

我々は地域のLIS企業と共同して、検査室のニーズに基づいたシステムを構築しました。同システムの導入により、物流ルートは112 kmも短縮され、検査結果の90%以上が自動でバリデーションされるようになりました。91%以上のスタッフが、この変化を前向きに捉えており、高い満足度を示しています。

LISは検査室の検査所要時間(TAT)の改善にもつながりました。一般生化学検査の98%以上が3時間以内に結果報告されています。免疫検査の約94.9%についても、生化学検査と同時に、解釈コメントを添えて臨床に報告できるようになりました。

検査に必要な器材も19点から10点に削減し、予算の効率的な運用に貢献しました。様々な検査のプラットフォームを集約化した結果、各検査室では異なる検査の同時測定が可能になるとともに、一部の検査は中央検査室へ一本化されるようになりました。

我々は現在、州全体での標準化・統合化を通じて、財政的に持続可能な臨床検査サービスを住民に提供しています。何よりも重要なことは、我々が患者さんに提供する価値およびケアのレベルが向上しているということです。


本稿は広州(中国)で開催されたRoche Efficiency Days (RED) 2018 REDefining Perspectivesでの発表「Embrace lab standardisation and integration to the next level」を基に作成しました。

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