健康を意識するミドルクラスの増加傾向が、インドの新たな医療分野の拡大を押し進めています。病気を治療するためのケアだけでなく、病気を予防するためのケアも求められるようになってきました。この需要を受けて医療制度は疾患予防・スクリーニング・早期診断に舵を切っています。診断はこの医療モデルの中核をなすものです。
第II・III層都市の重要性の高まり
インドの医療と臨床ラボのリーダーたちは、拡大する需要に応えるには、医療サービスの賢明な配分が不可欠だと認識しています。専門知識やインフラなど、ヘルスケア関連資産の75%にアクセスできるのは人口の27%に限られています[1]。しかも医療へのアクセスは、大都市以外ではきわめて限定的です。
PathKind Diagnostics社のCEOで医師のSanjeev Vashishta氏は2018 LEADx Diagnostics Leadershipサミット(インド, ムンバイ)のパネルディスカッションで次のように主張しました – “次の成長の波は第II・III層都市から押し寄せるべきなのですが、そうした都市では成長を後押すしる人の数がまだ足りません” この状況を変えるため同社は、検査室と検体収集センターのハブ&スポーク方式ネットワークを構築、サービス拡大を目指しています。
3層モデルを想定してPathKind Diagnostics社は、主要都市圏のネットワークラボと第III層都市の救急検査室をつなぐ地域レベルの基準試験所の設置に取り組んでいます。このモデルには、検体を検査のプロセスに沿って搬送する複数の検体収集センターが組み込まれています。
また検査室のフランチャイズ化や地域ラボとの提携からも、さらに広範囲なネットワークの構築が可能です。いずれにしても投資の価値を最大限に引き出すためには、患者さんとのタッチポイントに立ちはだかる壁を越えて、家庭や地域社会に検査室を浸透させる新技術を駆使したインフラの構築が不可欠です。
医療アクセス拡大を実現するPOCTの可能性
貧しい農村部の人々は、重要な医療情報にアクセスできず、手遅れになることも少なくありません。国内データによると「受診のために採血した経験がある」と回答したのは、インド国内でわずか10%でした。検査後すぐに結果が出るシステムをコミュニティに構築することで、通院・すなわち1日分の稼ぎを失うことが困窮につながる人たちの負担を減らすことができます。
POCTは患者さんと医療のタッチポイントに存在する、壁を引き下げる解決策の1つです。少ないリソースでどう導入するかという課題はあるものの、その可能性についてはマラリア・デング熱・HIVなど感染症に対する迅速診断の効果で広く認知されています。また糖尿病のような非伝染性疾患の発症率が、インドをはじめとした新興諸国で急上昇していることから、慢性疾患の診断と継続的モニタリングにも有用であることが明らかです。
Manipal Hospitalsのマネージングディレクター兼CEO、Dilip Jose氏は振り返りました – “CSR(企業の社会的責任)の一環として、病院の立ち上げをリードしましたが、近隣地域の200人に募って1か月あたりわずか1ドルの負担でPOCTをスタートさせました。糖尿病は、自宅モニタリングとジェネリック医薬品でコントロール可能なのです”
もちろん月額1ドルは大きな投資とはいえませんが、コミュニティや地域全体を対象に広げると大幅な投資額のアップは避けられません。
Vashishta氏は訴えます – “私たちは何年も前から、POCTの必要性を主張してきました。ある視点から見れば、精度の高い検査が望ましく、感度や特異度は高くなければならない。POCTはこの点でまだ改善の余地があります。また、スクリーニング検査としての経費は高額なものとなりがちです。”
POCTは、すべての人に高精度で手頃な診断を提供できる、スーパーマンではないかもしれません。しかし医療提供者が遠隔地の患者さんに手を差し伸べ、治療の輪のなかに組み入れることで、フォローアップにかかる不要な経費や時間は回避できます。
POCTによる検査結果をトレースするモバイルプラットフォームと組合わせれば、ラボや医療従事者は活動エリアを拡大させ、遠隔地の患者さんにも医療サービスを提供できます。携帯電話の普及率は今後も急速に増加すると予想されるため、革新的なサービスと低コストのデジタルソリューションを提供する、バーチャルネットワークを備えた物理的インフラが出来上がっていくはずです。
インド英国健康研究所のグループCEOで医師のDr Ajay Guptaは“モバイル機器がインドの診断サービスのハブとなり、患者さんがその中心: つまり医療の中核になると考えています”と語り、臨床検査ラボのさらなる進化への確信を表明しました。
[1] Patil, A., 2002. Current health scenario in rural India. The Australia Journal of Rural Health. 10(2), pp.129-135.
This article is based on a panel discussion “Are we ready to drive the next wave of healthcare growth?” at LEADx Diagnostics Leadership Summit in Mumbai, India.