2016年、英国の認知心理学者でコンピュータ科学者のGeoffrey Hinton氏は、さらなる放射線科医の訓練を停止するように呼び掛けた。AIベースの新しい放射線医学アプリケーションが常により効果的になるにつれて、Hinton氏は、AIが放射線医学の業務の大部分を引き受ける可能性があると考えた[1]。AIは臨床検査分野にも同様の影響をもたらすと期待されているが、放射線診断と同様に、一部の検査項目は他の項目よりも自動化に適する傾向がある。多くの様々なデータセット間の三角測量を必要とする診断タスクは、自動化が比較的困難である。例えば、AIシステムが乳がんの診断方法をゼロから学習する場合、診断を試みる度に30を超える変数を考慮する必要がある。これには、画像スキャン及び遺伝子検査からの構造化された情報、並びに構造化されていない患者の記述や家族歴が含まれる。 専門医と同じレベルの専門知識を得るには、AIシステムが70億個の固有の乳癌サンプルを分析する必要があると推定されている。他の診断タスクは、自動化により適する可能性を有する。乳癌と比較して、冠動脈心疾患の診断、インフルエンザの傾向のマッピング、 あるいはECGにおける不整脈の診断に必要な変数は少なくなる。過去2年間で、ふたつのチームが、AIが皮膚癌の診断において専門医と同程度に優れていることを示したが、スタンフォードの別のチームは肺炎についても同じことを実証した[2]。また、AIは、リソースの少ない環境での診断サービスへのアクセスを改善し、継続的な患者モニタリングの新たな機会を創出することで、ラボの診断領域をふたつのより広い方法で変化させる可能性を有する。
診断サービスを欠いている市民への医療提供
多くの発展途上国や先進国の遠隔地では、何百万人もの人々が、検査結果を生成、解釈、説明できる医師との相談時間を含む、基本的な診断サービスへのアクセスを欠いている。この作業の一部を引き受け、診断コストを削減することで、AIはこの問題に対処する上で大きな役割を果たすことができる。一部のAI支援診断システムは肯定的な診断を下す場合がある一方、他のシステムは特に重篤な疾患を除外することに焦点を当てる。多くの重症疾患に対してAIシステムによって達成される負の予測値は、90年代にすでに存在しており、多くの場合、農村地域で働くコミュニティ医師の精度よりも良好な精度に達している。検査結果が陽性に戻った患者については、地域の医療システムによって紹介および管理することができ、臨床医学および臨床検査医学の訓練を受けた専門家が必要なケアを提供できる。
継続的なモニタリングによる治療の改善
長期的には、AIを使用して新しいタイプの患者データを組み込み、より個別化された方法で患者を継続的にモニタリングすることもできる。毎年、歩数、心拍数、睡眠パターン、カロリーをリアルタイムで追跡するウェアラブル機器を使用する人が増えている。歯を磨いている間に、唾液のバイオマーカーからデータを抽出するスマート歯ブラシが広く採用されることさえありえる。今後5年以内に、このような進歩により、患者について我々が知りうることが変わる。患者とは、特定の時点においてバイタルサインが観察される人にとどまらない。それは依然として起こるが、ラボは継続的なシグナルにもアクセスできるようになる。個人によって大きなばらつきがある場合は、ラボが既存の治療計画の適時の調整を支援できる。人の検査結果が正常かどうかを決定するのは、患者人口の基準範囲ではなく、時間経過に伴う変化の仕方であることが分かってきている。今後5年間で、AIのより実用的な応用が出てくると考えられる。AI支援型医療システムに向けて今から準備を進めるラボが、最も大きな恩恵を受けることになると見込まれる。この新しい現実に備えるには、検査室が情報のデジタル化、インデックス作成、アクセスしやすい形式での保存を開始することが重要となる。
参考文献:
[1] A.I.Versus M.D.、診断が自動化されるとどうなるのか?The New Yorker, 2017
[2] スタンフォード大学のアルゴリズムは放射線科医よりも肺炎の診断に優れる、Stanford News, 2017この記事 は、インドのムンバイで開催されたLEADx Diagnostics Leadership Summitで行われたプレゼンテーション「 医療と診断における人工知能」に基づく。

