日本は肝細胞癌(HCC)サーベイランスのグローバルリーダーであり、早期癌の発見を可能にする効果的なプログラムが患者アウトカムにプラスに働いています(HCC 患者の 62% が A 期および B 期で診断され [1]、5 年全生存率は 44% と高い)。日本の医療、健康政策および医療保険も国際水準にありますが、検出や診断から日常医療などの HCC の管理において、未だ満たされていないニーズが影響を及ぼし続けています。
HCC の管理に関する日本の進歩や課題についてより詳しく知るため、Lab Insights では、ウイルス性肝炎、HCC 発症のリスク解析、肝癌治療を中心に臨床研究を行っている肝臓専門医の金子俊博士にお話を伺いました。金子博士の最終的な目標は、効果的な抗がん治療を実現するだけでなく、慢性肝疾患から肝癌発症に至る危険因子を特定し抑制することによる、肝癌の根絶です。
日本における HCC の疫学および治療
近年、B 型・C 型肝炎ウイルス(HBV および HCV)感染のスクリーニングや HBV ワクチン接種が実施され、日本の肝癌の疫学は変化しています。HCV 関連 HCC が減少し、非 B・非 C(NBNC)肝疾患が増加している一方で、金子氏は次のように述べています。
進行 HCC には依然として課題があり、無症状で経過するか、スクリーニングを回避し、診断されずにいる症例が多数あります。また、一部のウイルス性肝炎患者には直接作用型抗ウイルス(DAA)薬または核酸類似体による治療が有益ですが、アルコール性および非アルコール性脂肪性肝疾患の患者と同様に、NBNC 患者にはあまり治療方法がありません。さらに、職場での健康診断や国民健康診断のウイルス性肝炎スクリーニングでも、一部の患者が、たとえ肝炎陽性で詳細な検査が必要な場合でも見落とされることがあります。
プラス面として、日本の医療制度は、併用療法や DAA などの高価な治療法を含む多くの診断・治療法を経済的に支援しています。 新しい治療薬を利用できることが増え、より多くの HCC 患者の治療が行えるようになりました。アテゾリズマブとベバシズマブは現在、HCC に対する有効な一次治療薬に加わっていますが、肝予備能が低い患者や高度に進行した肝癌を有する患者では、治療の進歩や利用可能性にかかわらず予後は不良です。
診断およびサーベイランスのプロトコール
B 型慢性肝炎、C 型慢性肝炎、肝硬変を有する患者を含む「高リスク」患者に対して、日本肝臓学会の肝癌診療ガイドラインでは、6 ヵ月ごとの超音波検査と腫瘍マーカー評価を推奨しています [2]。HBV と HCV による肝硬変を有する「超高リスク」患者に対しては、より高頻度の 3 ~ 4 ヵ月ごとの超音波検査、腫瘍マーカー(AFP、AFP-L3、PIVKA)検査、6 ~ 12 ヵ月ごとの任意のダイナミック CT/MRI 検査(任意)が推奨されています。
若く健康な日本人の場合、国のサーベイランス制度は、医師による事前の評価に基づいてリスク層別化戦略を適用し、その後、患者の年齢と以前の健康診断歴に関連する診断ツールを使用します。若年患者では、ウイルス性肝炎の基礎疾患を有するものの、症状がなく、国民健康診断を受けていないことがあります。このような患者を見落とさないために、職場での健康診断でスクリーニングを行ったり、より高度なサーベイランスツールを用いたりすることにより、この集団を十分かつ迅速に捕捉する取り組みが行われています。
日本のサーベイランスの取り組みは、ウイルス性肝炎や HCC に関するテレビ番組やキャンペーンなど、社会的・メディア的取り組みによっても補完されています。「当院では、肝癌のリスクとして無症候性疾患および脂肪肝について患者や一般市民の教育を行い、進行性線維症に対しては画像検査による疾患モニタリングを行い、詳細な検査が必要な患者だけでなく一般開業医に対してワークショップを実施し、健康診断のデータに関する研究も行っています」と金子博士は述べています。満たされていないニーズがある領域と将来への期待
金子博士は、HCC サーベイランスにおいて世界をリードしているにもかかわらず、日本には改善すべき分野が多いことを認めています。「日本のがん検診システムは十分なものですが、患者へのフォローアップが難しい状況が続いています」と話しています。「胃癌や結腸癌の患者は手術後 5 年間モニタリングされ、再発がなければそれ以上のモニタリングは行われません。しかし、HCC 患者の場合、いつフォローアップを終わらせるかを知ることが困難です」
PIVKA や他の AFP アイソフォームと並んで HCC の診断マーカーの主流である AFP は、常に正確で感度が高く疾患を示すわけではないため、より多くの患者を把握するには、新しいバイオマーカーや診断ツールを含む新しい技術が必要となるでしょう。現在、医師はルーチンの臨床診療、患者スクリーニングまたはサーベイランスにおいて確立されたバイオマーカーに頼っており、精密医療を促進するゲノムバイオマーカーを待っている状態です。
金子博士は、自身の臨床診療において、個別の差異、予後、発がん性を評価し、適切な治療薬を選択できる診断ツールを求めています。ゲノム医療や精密医療の他に、新しい HBV マーカー、新しい治療薬、単純な脂肪症と非アルコール性脂肪肝炎を鑑別する検査の進歩を望んでいます。
また、肝癌のスクリーニングや治療の質を向上させるためには、政府の新たな政策が極めて重要になるとも金子博士は指摘しています。「政策立案者には、適切なスクリーニングが早期発見と早期治療を可能にし、予後を改善することを知っていただきたいですが、費用には現実的な限界があるでしょう」と金子博士は述べています。
日本のガイダンスの成功を知った国は、リスク分類のための腫瘍マーカーサーベイランスと画像検査の併用し、これを日々の診療に組み込むことを検討してください。そうすることにより、日本における HCC 早期発見の割合、局所治療を受けられる患者数の割合、予後が改善した患者数の割合は上昇しました。費用対効果の観点から、資金や医療インフラを有する国はこのようなサーベイランスを実施することが賢明であると言えます。
参考文献:
[1] Kudo M.(2018).Management of Hepatocellular Carcinoma in Japan as a World-Leading Model.Liver cancer, 7(2), 134–147. https://doi.org/10.1159/000484619
[2] Guideline on Liver Cancer Examination and Treatment. https://www.jsh.or.jp/English/examination_en/.Published 2021.

