世界中の多くの検査室は、その検査の品質および精度を保証するため、国際標準化機構(ISO)の定める規格に従っています。これらの規格には、あらゆる種類の検査室に適用されるISO/IEC/17025や、臨床検査に特化したISO 15189などがあります。
ISO規格への適合は、包括的・高コストかつ多くのリソースが必要なプロセスとなることがあります。大規模な検査室ならば、ISO認定に必要なリソースを確保できるかもしれませんが、中小の検査室は認定に至るまでのコストと複雑さのため、断念せざるを得ないケースもあります。この現実が多くの国で「All or Nothing」の状況を作り出しています。
ISO規格は国際的に認知されている一方、各国が義務付ける品質規格も、品質保証に一定の役割を果たすと考えられます。そのため我が国(タイ)は、品質の基本的なベンチマークを設定するThai Medical Technology (MT) Standardの導入を選択しました。
Thai Medical Technology (MT) Standard
Thai MT Standardは、次の6つのポイントに基づき考案されました。
- 理解しやすい
- 実施にコストがかからない
- あらゆるレベルの臨床検査室で実現可能である
- 国際規格に適合する
- タイの保健政策に適合する
- すべての病院がHospital Accreditation(病院認定: HA)プロセスを受ける
この規格作成にあたって最大の難問は、国際認定プロセスと、タイ特有の文化的要件を一致させることでした。その理由は、特に監査担当者がタイ特有の文化的要件および国固有の要件について、指針を示すことができなかったためです。我々の目標のひとつは国内のすべての臨床検査室の認証ですが、最終目標は臨床検査サービスの継続的な品質向上なのです。
タイ国内には1,450の臨床検査室があります。その2/3は、保健省の下部組織である政府部門に属しており、残りは大学病院・地域の医療科学センター・陸軍病院・Bangkok Metropolitan Administration(バンコク都庁)に属しています。我々の目標は、これらの臨床検査室のなるべく多くがThai MT Standardに適合することでした。
導入・評価・結果
Thai MT Standardの導入に際して、我々は、4つの主要領域(トレーニング・臨床検査室のネットワーク・内部精度監査・認定)における戦略的活動に着目し、導入に向けたロードマップを作成しました。我々の臨床検査室評価プロセスには、病院または臨床検査サービスの規模に応じた人数の監査担当者による1日評価が含められました。
我々はISO 15190に基づき、精度評価用の100項目のチェックリストを作成し、このリストを用いて精度管理システム、ならびに検査室の技術および安全に関する評価をしました。各評価訪問のコストは検査室の規模によりますが、1件あたり345~645 USドルの範囲でした。評価に合格した臨床検査室には、有効期間3年の認証を与えられます。
臨床検査室の評価を申請する検査室の数は、1998年から2016年10月にかけて増加し続けました。当該期間中、2,259の臨床検査室が評価を受け、そのうち956の検査室が認証を取得しました。認証を取得した臨床検査室のうち、36%は継続認定を予定しています。認証を取得した臨床検査室の一覧は、Medical Technology Councilのオンライン登録簿に掲載されています。
Thai MT Standardおよび認定プロセスは、検査の品質に関する認識拡大に役立ちました。プロセスとサービスの両面において品質の概念を育んだばかりか、設備の維持・安全・管理においても向上をもたらしました。
参加した臨床検査室では、作業量・物品調達と保管・検査情報システムにおいても改善が見られました。また、検査所要時間(TAT)が短縮され、内部精度管理(IQC)および外部精度保証(EQA)がともに向上しました。顧客のフィードバックも満足度が高まり苦情が減少するなど、大幅に改善していました。
「臨床検査室のベンチマーキング調査は、臨床検査室の改善、他の検査室とのパフォーマンス比較や、検査室の将来像を描く際に必要な情報源にもなりうる(Naiyana Wattanasri)」
この記事は、北京(中国)で開催されたRoche Efficiency Days (RED) 2016での発表「Thailand Laboratory Benchmarking Survey 2014」に基づき作成しました。