全ての検査室スタッフが、オペレーション標準化とエラー低減を志向し、確立された手順を学習・遵守することで、患者さんの苦痛を小さくすることができます。
目標達成のための標準化
2009年インドネシアのSiloam Hospitals GroupのマネージングディレクターDr. Grace F Indradjajaはチームメンバーと協力して、標準化プロセスに着手しました。検査室のエラーを削減して患者さんの不利益を小さくすることが目的でした。
この標準化への取り組みは何層にも及ぶ根深い問題でした。Dr Indradjajaが所属する病院はグループとしては急速な成長を遂げていたものの、病院ごとに検査機器や検査方法はばらばらで、物品調達の方法もまちまちになっていました。
Dr Indradjajaによると“患者さんの安全を担保し、顧客満足を獲得するには、より高い精度・再現性・信頼性・迅速性を備えた、高品質の検査サービスが必要でした。もっと効率的なインフラ整備・リソース配分計画・スタッフの能力開発を望む声が上がっていました”。
また彼女を含むチームメンバーは、最高基準のサービス確保に高性能検査機器が必要であり、TAT短縮には統合型の検査システム構築が不可欠であることに気づいていました。
Siloam Hospitals Groupの検査室の標準化は、標準化された機器の設置、検査室スタッフ全員のための再教育訓練を視野にとらえています。さらに、報告可能な検査あたりの費用(Cost Per Reportable Result: CPRR)システムによる試薬調達アプローチを導入し、試薬の品質を維持しつつ、調達プロセスを効率化する体制を整えています。
エラー削減の対象は、検査室内のスタッフだけでなく、納入業者などの外部パートナーにまで広げられています。最高レベルの機器・製品・プラットフォームを提供するサプライヤーとの関係の構築が、高品質のラボサービスと医療につながると信じているからです。
Dr Indradjajaによると“当院の検査室は、納入業者と協力して在庫ソリューションシステムを導入しました。このシステムでは物品の①調達②保管③期限切れ試薬の処理の3つのプロセス改善に努めています”。特定検査の集約化と、レファレンスとなる検査室の構築によって効率化がもたらされて、エラー削減につながっていると主張しています。
提携ブランチがある場合や他施設の検査室と提携している場合には、共通した技術・共通した検査プラットフォームを採用することが有効です。標準化された検査結果や基準値を導出できるだけでなく、TATの短縮も達成できます。
エラーへの対応策と予防策
もちろんエラーは不可避なものですが、優れた検査室はそうした不測の事態にも備えています。Dr Indradjajaによると“Siloam Hospitalsは、効果的なインシデント報告システムと「個人を責めない」風土” を備えています。
彼女のグループでは、スタッフ全員がインシデントを報告する権限を有し、根本原因を分析することでシステムとしての検査室改善を図っています。このアプローチには、今後のエラーを減らすだけでなく、スタッフが前向きな気持ちで仕事に貢献できようになる、という利点があります。Dr Indradjajaはスタッフの退職率低下にも貢献しているのではないか、と考えています。
同検査室では、測定前・測定・測定後の3段階でエラー削減策を設けています。
測定前段階ではInternational Patient Safety Goals (患者安全目標)に準拠し、患者さんの検体を2つの識別情報(フルネームと生年月日)によって取り違えることなく処理します。検査室情報システム(LIS)はバーコードラベル印刷ができるので、プライマリチューブを患者さんと直接リンクさせ、測定機器でも認識できるようにしています。
採血専門スタッフのための継続的教育では、真空採血管による採血技術演習を実施しています。真空採血管システムは搬送時間を短縮できるだけでなく、検体の安全性と安定性も向上させます。この測定前段階では、すべての試薬の有効期限と消耗品の使用期限が厳密にモニタリングされています。
測定段階でのエラー削減策には、検査室内外の品質保証が組み込まれています。まずラボのスタッフ全員がエラー削減策を遵守し、機器や試薬が性能を発揮できるようにしています。Dr Indradjajaによれば、機器故障を予防する定期的メンテナンスと、試薬の保管温度のモニタリングが、分析段階のエラーを削減するポイント、とのことです。
測定後段階には、検査結果を自動的にLISへと送信するLIS統合型機器が導入されており、データ入力関連のエラーを低減・防止しています。患者さんの病歴と累積結果はLISからアクセスできるため、検査結果の経時的なモニタリング データにも容易なアクセスが可能になりました。
手順の確立が安全を担保する
検査室の安全性と感染予防に注力することで、確実に患者さんの不利益を減らすことができます。多くのラボは、重要業績評価指標(KPI)を設定して、厳格な安全基準を満たすプロセスを遵守しています。TATはDr IndradjajaラボのKPIのひとつです: ルーティン検査では1.5時間、重要な検査(ヘモグロビン値・血小板数・カリウム値)は15分にTATが設定されています。
治療方針決定に重要な測定値が出ると、検査室から臨床医に3回通知が送られます。その情報を受け取った臨床医は、検査値をリードバック(データを既読にするプロセス)する必要があり、このプロセスはLISに記録されます。出検を指示した医師は、検査値とその結果に基づく治療計画を、患者治療ノートに記録します。リードバック プロセスは、LISに記録されることでトレーサビリティ データを作成し、品質管理レベルを向上させるため、問題発生時も即座に解決できます。
このような手順はラボ全体の標準化を確固なものにし、チームメンバー全員が安全慣行や安全目標に合わせて行動できるように促します。
タイムリー&クオリティー: 技術による最適化
患者さんの不利益を低減させる観点から考えると、タイムリーさと品質は相反する要素に見えるかもしれません。しかし、適切なタイミングで適切な治療を患者さんが受けられるよう、検査室にはアプローチを考える責務があります。
Dr Indradjajaによると“低品質は大災害としか言いようがないですね。患者さんに不利益を与えた結果、患者さんからの信頼・臨床医からの信頼・病院組織からの信頼を一時に失って、ラボの評判は地に落ちてしまいます。正しい診断と治療には信頼できる正確な検査結果が不可欠なのです”。また、品質に妥協することないTATの短縮も、最新技術を投入したソリューションによって可能となっています。
タイムリーさと品質のバランスを保つためには、適切な機器とLISの組み合わせが不可欠です。Dr Indradjajaは、統合された自動化プロセスによって、手作業によるサンプル処理を削減、または完全に排除することも必要と考えています。検査室のマネージャーは無数の技術オプションのなかから、自チーム・医師・患者さんのニーズに最適なソリューションを選択する大役を担っています。
正確でタイムリーな検査結果は患者さんの苦痛を取り除き、総合的コスト(金銭だけでなく病院滞在時間や精神的な負担など)を軽減することができます。
Getting the team on board
患者さんの不利益を減らすことの重要性を、すべてのチームメンバーが理解するために、スタッフ トレーニングが有効です。Dr Indradjajaのラボでは継続的なプログラムとして、患者安全目標に関連した実地トレーニングを年1回、製品知識研修会は毎月実施しています。これはリーダーの彼女自身が持つ “トレーニングを通じ、患者さんの安全に影響を与える事象に、スタッフの意識を向けることができる” という信念に基づいています。スタッフの知識と意識をアップデートすることが、サービスの質を向上させ、検査の精度を高める、とDr Indradjajaは考えています。
The matrix can also be applied to the effects of the incident on service, finance and the environment, as well as organisational, reputational or legal impacts. Placement of the incident against the matrix allows for a quick determination of the most appropriate course of action.
患者さんの被る不利益を、指標として具体化することは、インシデントのトレーサビリティだけでなく、チームメンバーの教育ツールとしても有用です。Dr Indradjajaは、患者安全性を向上させるために、リスク マトリックス(図1参照)を採用しています。このマトリックスでは、縦軸の発生頻度・横軸の深刻度を、ラボ内外のスタッフの評価ならびに患者さんへのインパクトの観点でプロットしています。マトリックスはインジデントが、提供する医療サービスや施設の財務に与えるインパクト、さらには病院組織の結束力や外部評価に及ぼす影響の判断にも有効です。インジデントをプロットすることで、スピーディなトリアージが実現できるためです。
Figure 1. 患者安全性の向上のためのリスクマトリックス
検査室の究極的な目標は、質の高いタイムリーな医療サービスを通じ、患者さんの健康を増進させることです。プロセスの標準化・新技術の導入・トレーニングの実施を通じてのエラー縮減と予防は、患者さんの不利益を取り除き、健康レベルの向上に貢献することになります。