体外診断用医薬品(IVD)メーカーの高品質なサービスとサポートが、遺伝子&病理検査ラボの成功の鍵を握っています。なかでも遠隔サービスモデル(オンラインを利用した機器性能のモニターとプロアクティブなサポート)の普及が進んでいます。
ヨーロッパや北米では多くの検査室が、アップタイムの改善・メンテ費の削減・運営合理化のための手段として、遠隔サービスを採用しています。しかしアジア太平洋地域ではほとんどの遺伝子&病理検査ラボが、いまだにシステム接続に苦戦している状況です。
オーストラリアはアジア太平洋地域でも、珍しく遺伝子&病理検査ラボの遠隔サービスが浸透している国のひとつです。私たちLab-Insights編集部はオーストラリアの主要なラボである、メルボルンのMonash Health Pathologyと、パースのPathWest Laboratory Medicineのシニアサイエンティストへのインタビューを通じ、彼らの経験や今後の展望を学ぶことができました。
リモート接続への取組み
どちらのラボも、2013年以前から遠隔サービスを採用した、アーリーアダプターでしたが、導入段階では両者とも複数の課題に直面することになりました。
最初の課題は、病院 IT 部門のリクエストに対処することでした。Monash HealthのシニアサイエンティストAlex Laslowskiは述懐します “病院側は当初、リモート接続に消極的でした”。導入時点では病院側のITシステムを経由しないために、3GBのUSBメモリーを使用していたといいます。“病院側が外部ネットワークと接続を容認し、匿名化データをやり取りするプロバイダー専用チャンネルが設置されるまで、USBを持ち歩くスタイルを継続していました”。
PathWest Laboratory臨床微生物学部門のDr Todd Pryceも、遺伝子診断装置のリモート接続開始時に同じような体験をしています。
“通信事業者との間で、事務処理や請求書のやり取りが頻繁にありました。このやり取りには事務方の厳しいチェックが入り、ラボ側はその妥当性を示す説明が求められたのです。けれども新しいPCR検査機器のサイズは非常に大きかったので、リモートアクセス必須事項でした”。
データ共有にまつわるお役所仕事から解放されたのは、Pryce氏にとって大きなプラスでした。“お決まりの懸念といってもいいのですが、患者の個人情報が漏洩する危険性に関するディスカッションは有りました。ですがシステムは検査機器を診断するためのものであって、個人の機密データを収集するものではなかったのです”。
ベネフィットを体験する
どちらのラボも機器のリモート接続が、従前以上の積極的なサービスとラボの効率性にとって、総合的な改善となったことを認めています。例を挙げると、PathWest Laboratory Medicineではこれまで、定期的に機器故障のリスクを報告する連絡を、チップアダプタ(万一故障しても比較的簡単かつ廉価で修理可能)に至るまで受けていました。
Pryce氏によると “リモート監視技術の有用性は明らかです。機器故障のメタデータを見れば、リスク軽減のヒントを発見できます。機器ごとに故障した場合、できなくなることとリモート操作で対応できることのリストを作ることもできます”。
世界でもまれなロケーションにある都市、パースでの検査業務は先進的なサービス導入を後押しする要因です。多くのメーカーのサービス拠点が集まっている、オーストラリア東海岸からパースへ機器や学術のスペシャリストを派遣するのは、極言すれば時間の無駄だからです。Poyce氏によると“東海岸からよりも、ニュージーランドからのほうが、パースへのアクセスは良い”くらいなのです。
Monash Health PathologyのLaslowski氏は、ラボは都市部に立地しているにも関わらず、ある機器が緊急メンテナンスを必要としたタイミングで、担当エンジニアが国内出張で不在だった経験があります。このときも機器メーカーがリモート担当技術者を指名し、遠隔で機器点検を実施して、染色処理が完了できました。
サービスの未来
LaslowksiとPryce両氏は、数年内に遠隔サービスはさらに充実していくと考えています。たとえば、機器自体が統計的なデータに基づく情報を提供したり、各種アプリによって研究データに容易にアクセスできる ー そういった、不調や交換時期超過を未然に防ぐモニタリングと、メンテナンスを組み合わせたサービスモデルの誕生を期待しています。
“深刻なエラーが生じた際に私を介することなく、現場のエンジニアに自動で警報を発信してくれるシステムが理想的ですね。AIがサービスに組み込まれ、ダウンタイムが削減が実現できれば、それは検査室にとって大きなメリットです”と語ったのはLaslowski氏。
同氏は遠隔サービスによってラボ管理職の重責が取り除かれるものの、最大のメリットを享受すべきは患者さんである、と強調しました: “機器の不調を未然に防ぐことは、検査ミスや再検の縮減につながり、患者さんの安全とユーザーエクスペリエンスの向上をもたらすのです”。