アジア太平洋地域の循環器バイオマーカー測定TAT目標値 (2020年版)

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アジア太平洋地域(APAC)の多くの臨床検査室が、循環器マーカーのターンアラウンドタイム(TAT)の目標値を設定しています。当社が検査室の効率性を評価するために実施しているAPACラボ ベンチマーク サーベイ2020年データによると、他よりも高い目標値を掲げている国やセグメントが存在することが判明しています。

TAT目標値がもつ意味

APAC全体での1158の検査室が参加した本サーベイでは、77.6%のラボが循環器バイオマーカーのTAT目標値を設定していました。国立や私立病院の検査室では、受託検査ラボよりも「目標値がある」と答えたラボの割合がはるかに高くなっています。これは前者の検査室が救命救急医療や急性期医療の現場であり、時間的な制約を受ける傾向が高いものと推測されます。

緊急性の低い状況下であっても、TATの短縮は患者さんのユーザーエクスペリエンス(UX)と結果にポジティブな影響を与えます。患者さんの待ち時間が短くなれば、臨床も心機能バイオマーカーの検査をしやすくなります(心不全管理のサポートとしてプライマリケア施設でNT-proBNP検査を採用したスペインの病院のケーススタディウエルバ大学病院の心不全ケアの改革参照)。

スピードの必要性

心機能バイオマーカーのTAT目標値を設定していた899の病院/商業ラボのうち、32.6%が30分以内の結果報告を目標としていました。小規模ラボ(本稿では処理サンプル数が250検体/日未満と定義)では特に、この30分を目標を掲げている検査ラボが多いという結果になっています。

多くの国々で、大多数の検査室がTAT目標値を1時間未満に設定していましたが、一部の国はより迅速な検査の実現に取り組んでいます。タイの検査室は心機能バイオマーカーの迅速検査を特に重視しています(迅速検査にトロポニンT測定を導入し、診断のスピードアップと死亡率の低減に取り組んでいるタイの大学病院のケーススタディを参照)。ただし当社は、回答者のプロファイルの違い、国別のデータに影響を与えている可能性があり、その検証と解釈にはさらに多くのデータが必要と考えています。

特に病院の検査室に焦点を当てると、TATが短めのラボにはITを駆使した設備: ①重要結果報告システム②自動バリデーションツール③看護師用アラートステーションなどに大規模な投資をしている傾向があり、中にはSTAT(Short TAT)検体専用装置や専用ラボを設置している施設も認められました。

考慮すべき事項

このデータを解釈するうえで忘れてはならないのは、本稿のデータはTAT目標値であり、実際のTATではない点です。またデータはバイオマーカー間の特徴・相違を反映しておらず、臨床検査における1つの評価指標を提供しているに過ぎません。そのため主要バイオマーカーのTAT対象となる心筋トロポニン測定やNT-proBNP測定は、項目によって医療機関間や施設内でも大きく異なる可能性があります。

循環器バイオマーカーのなかには、COVID-19感染者の管理に役立つものがあるかもしれませんが、2020年6月現在の状況が病院や検査機関に、多大な影響を与えていることは間違いありません。本稿のデータの大半はSARS-CoV-2のパンデミック前に収集されたものでしたが、この感染症が病院や検査室に与えている影響は甚大です(心臓病とCOVID-19による死亡率の相互関係を検討した武漢の循環器専門医の報告参照)。
 

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