検査室最大の課題: 現在と未来

BulletArticle

どの検査室にも固有の強みと弱みがありますが、多くのラボに共通する課題が複数あります。各国の異なるバックグランドを持つラボ リーダーに「現在と未来の、検査室最大の課題は何か?」と尋ねてみたところ、次の3つに集約されました: リソースの制限・労働力の格差・データの管理

リソースの配分

世界レベルでの高齢化といった事象に起因する医療コスト急増加のため、どの検査室も運営資金の調達に苦闘しています。投入できるリソースに制約があるなかでも検査室は、新たな貢献・継続的な改善・付加価値の創造に注力しなければなりません。

オーストラリアを拠点とする世界規模のヘルスケア&ラボラトリー サービス企業Sonic Healthcare Limitedの米国法人で最高医療情報責任者を務めるDr Phillip Chenは述べています: 検査室は「独自の視点」を有していることを世に知らしめなければならない。当社のラボでは、患者母集団全体を一度に見ることができる。それは非常に多くの価値につながるものと自負している。

価値を世に広く発信するには、検査室内のプロセス改善だけでなく、サービスが患者さんのアウトカムにどう影響するかという、高い視点から見ていく必要があります。スペインのウエルバ大学病院のCEOであるDr Antonio Leonは「検査室にとって最大の課題は、臨床検査から患者さん自身へと移行していくことだろう」と主張しています。医療リソースを効果的に投入するには検査結果が重要であり、患者さんのアウトカムにフォーカスすることが、検査室の資金調達や増資につながる可能性があります。

予算的な制約があろうとも「品質に妥協してはならない」という点でラボ マネージャたちの見解は一致しています。患者さんの安全と臨床医からの信頼は、確固とした標準を厳格に遵守することで築かれます。ヘルスケアにおいて事業とは、日常生活に不可欠なサービスを提供すると同時に利益を生むことなのです。

正規労働者の確保

検査室にとって第二の大きな課題は、優秀なスタッフの育成と確保です。検査室スタッフは、十分な経験を積む前に次のポジションに異動することも多く、こうした経験不足は新たなポジションでも連鎖することになります。

ラボ マネージャたちは、知識とスキルを習得し、タスクを自主的に進められるスタッフをいかに確保するか懸念しています。その一方でマネージャはスタッフのトレーニングに時間やお金を割くことに消極的です。まもなくスタッフが転職してしまう可能性があるからです。インドネシアをはじめとした一部の国では、検査技師の数がきわめて少なく、人材獲得競争が激しくなっています。

この問題へのアプローチの第一に、トレーニングに対する視点を変えることが挙げられます。インドの臨床検査センターBiochem Diagnostics Pvt Ltdの創設者兼ディレクターのDr Elizabeth Frankは述べています: 能力開発には大きな意味があり、対象者が検査室にとどまるか否かにかかわらず、チームのトレーニングは必須である。トレーニングはたいてい、通りいっぺんあるいはその場しのぎ的なものである。検査業界において包括的なトレーニング コースはまだ確立していないが、必要なものであることは疑いない。標本採取に時間がかかりすぎている等「何かが起きている」ことを察知できるようになるには、総合的なトレーニングが不可欠である。

二番目のアプローチは、スタッフに依らずに強固なシステムを柱にしてラボを構築、ラボの成長を持続する手法です。Dr Frankの説明によると「検査室のシステムを人に依存させなければ、チームメンバーが1人抜けたとしてもシステムに支障はない」からです。この強固なシステム構築には、合理化されたプロセスと他部署との連携が不可欠です。

第三のアプローチは、スタッフ自身がミスを素直に認めることができる環境づくりです。こうした環境であればチーム内の信頼が深まり、ラボ全体の成長につながります。リーダーに相談でき、ミスが成長につながる職場のスタッフは、安易に離職してしまうことも少ないでしょう。

トレーニングの機会を増やすことで仕事の満足度が向上し、スタッフの定着率が上昇します。さらに重要なのは、検査室に関わる人々のプロ意識を高めることです。インドネシアSiloam Hospitals Groupのマネージング ディレクターDr Grace F. Indradjajaは「検査スタッフの満足度と、患者さんや医師の満足度には関連性があり、ラボだけでなく病院のパフォーマンス向上につながる」と主張しています。

データの有効活用

技術の進歩により検査室は患者さんのデータを収集・活用できるようになりました。しかしそのデータを分析し、得られた知見をどう発信するかについては、頭を悩ませ続けています。
検査データの活用には、トレーニングや能力開発に投資し、新技術や分析手法を習得する必要があります。 前出のDr Chenによると「データの管理と分析に関してはまだまだ成長の余地があります。早い段階で導入を決め、カンファレンス等に参加することで、検査室は新技術トレンドの一歩先を行くことができる」のです。

「私はこれらの課題を、ラボの管理職にとって成長のための試練だと考えています。これまでの経験で得た知見を、目前の問題を克服するため、将来の意思決定に活かすー従前の枠組みを凌駕するシステムを構築し、職場にポジティブな変化をもたらす検査室といえるでしょう。

同じトピックの記事

おすすめのトピック

SequencingRED 2020Rare Diseases
次のおすすめ記事
Scroll to Top