CEOの視点:COVID-19時代のラボリーダー

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Chris Ting Profile

パソロジー・アジア・ホールディングス(PAH)の創設者兼グループCEOであるDr Christopher Tingは、東南アジア有数の臨床検査ネットワークを管理しています。シンガポール、マレーシア、ベトナム、オーストラリアで事業を展開しながら、PAHはこれらの地域でのCOVID-19パンデミック対策に大きな役割を果たしています。またDr Tingはさまざまな取り組みでリーダーシップを発揮し、ポスト・パンデミック時代における成功を目指して投資を行っています。

Lab Insightsの取材チームはDr Tingと、急速な変化と不確実性の時代におけるリーダーシップへのアプローチについて語り合いました。Dr Tingのインサイトには、現代の課題に取り組み、そして未来のニーズに応えるためにも、ラボスペシャリストが学ぶべき点が多くありました。

臨床医や政治家も巻き込んでより良いケアを作り出す

メルボルン大学医学部で学位を取得したDr Tingは、医師としてキャリアをスタートさせました。臨床検査業界に入るまでには、オーストラリアでの医療コンサルタント、東南アジアに戻ってからはシンガポール経済開発局のバイオメディカル サイエンスグループで活躍しました。これまでのキャリアが彼の経営哲学に強い影響を与え、その信念は今日まで貫かれています。

“この業界に入る前は検査室の提供するサービスやデータの利用者でしかありませんでしたが、医師側の期待と実際の検査には大きなギャップがあることに気がつきました”

このギャップは、臨床医と検査技師の間には見解のズレがあるという意味です。検査室のスタッフが、臨床的にあまり意味のない検査やサービスを一生懸命行う一方、臨床医は病理医の診断判断の指針となる臨床所見を添付し忘れたり、測定前エラーや結果の曲解を生じさせたりしてしまうことがあるのです。

このような状況を回避するため、Dr Tingはすべてのラボが“医学的に管理されるべき”、つまり臨床経験のある検査技師が主導るすべきだと考えています: “臨床医はラボの究極の利害関係者であって、つまり『相互依存の関係』なわけです。健全なオペレーションが何よりも重要ですが、技術的な観点からのみ管理されているラボでは、臨床的な意味を明確にするちょっとしたニュアンスを見失ってしまう可能性があります”
 

Chris Ting Profile
Dr Chris Ting, CEO of Pathology Asia Holdings (PAH).

Dr Pathology Asia Holdings (PAH)のCEO Chris Ting氏

PAHでは、ラボ運営のためだけに臨床医を採用するのではなく、定期的に他の臨床医と交流することを奨励しています。頻繁に教育セミナーを開き、臨床医が新しいアッセイの最新情報を吸収する場としています。またこれらのセミナーは、たとえば現在各施設で大規模に取り組んでいるe-orderingシステムのような新しいサービスについてのフィードバックを収集するためのフォーラムとなっています。

臨床医との交流は、検査にまつわる一般的な誤解に積極的に対処するうえでも役立ちます。“検査について『検査質はオーダーを要求しすぎる』などと不当に批判されることもありますが、広い視点で考えると、過剰な検査よりも利用率の低さのほうが大きな問題です。もっとパップテストや糖尿病スクリーニング、便潜血検査の検査をしなければならないし、まだ検査室の牽引力は低過ぎるといえます”

ラボサービスへの広範なアクセスと適切な資金調達を確保するために、Dr Tingは臨床検査関係者がもっと政府を巻き込むために働きかけるべきだと考えています。現在のパンデミックをDr Tingは、政治家と信頼関係を構築する、そして重要な医療政策決定において臨床検査室の地位を向上させる絶好とチャンスと認識しています。COVID-19検査のような目の前の問題はもちろん、サプライチェーン マネジメントや労働力開発、ラボ検査の払戻金など長期的な問題がここには含まれています。

“業界として効果的な政策を提唱することが絶対的に必要です。私たちのような臨床検査室は(メーカーなどの)上流サプライヤーと提携して、これまで以上に組織的なかたちで利害関係を結びながら協力していくことが必要です”

混乱の時代におけるデジタル イノベーションの追求

伝統的にデジタル変革に強い抵抗を示す業界に身を置いているDr Tingは、現在のパンデミックが医療のデジタル化を急速に加速させると確信しています。時代の流れによってラボがデジタル化に向けてこれまでにない積極的な姿勢で取り組み、変貌を遂げることになると捉えています。PAHは確実に行動に移す姿勢を崩すことはありません。

PAHは数年前にデジタルヘルスのスタートアップ企業Biomarkに投資しました。この企業は医療データを患者さんや臨床医にとってさらに実用的で理解しやすいものにするために設立されました。ここ数ヶ月、Dr TingはBiomarkと協力してCOVID-19をマネジメントする新しい機能に取り組み、この機能には地域の検体採取センターの過密化を防ぐ割り振りシステムも含まれ、患者さんが検査中にもソーシャルディスタンスを保ち、安全に検査を受けられるシンプルかつパワフルな技術を開発しています。

さらに同社は、ラボ検査結果の認証システムを開発している新興企業と提携を結んでいます。本技術の目下の応用が“免疫パスポート”の開発を押し進めるもので、この免疫パスポートが経済再開の切り札になるとして多くの政府が期待を寄せています。

“これらの既成概念をひっくり返すイノベーションへの挑戦は大歓迎ですが、PAHが支配権をもつ必要はないと考えています。私たちはアイデアの種を蒔いている、あるいは戦略的パートナーシップの構築にフォーカスしているのです。最終的にこうした企業が独立してくれたら利益相反を回避できますし、ベンチャーキャピタル、プライベートエクイティ、その他の必要に応じた戦略的投資から外部資金を調達できるようになって欲しいとも考えています”

アプリやデジタルサービスとは別に、Dr Tingは、現在のパンデミックが検査機器やアッセイの変革を後押しすると考えています。“国境を再び解放するためにも、これまでにない簡便さを備えた、数分で結果が出るCOVID-19スクリーニング法が必要です。現在のPCR法では上手くいっても結果が出るまでに1日かかります。これでは空港の入国審査などには機能しません” 

Dr TingはCOVID-19検査の次のパラダイムを明確に思い描くことはできないとしながらも、それは間もなくやってくると確信しています: “全世界がこの問題に取り組んでいます。この混乱から私たちを解放してくれる解決策はすぐそこまで来ているはずですし、プロセスで多少の混乱があったとしても、私たちが解決策を市場にもたらすフロントランナーになるはずです”
 

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